臨床工学技士として、循環器専門病院で5年間働いた。心臓カテーテル、補助循環、ペースメーカー。命に直結する機器を扱う現場で、毎日のように心不全患者を見てきた。
そんな自分が今もっとも注目している会社がある。クオリプス(証券コード:4894)だ。投資の話をする前に、まず臨床の話をしなければならない。
なぜ今、心不全なのか
日本の心不全患者数は現在約120万人。2030年には130万人を超えると予測されている。
「心不全パンデミック」という言葉が医療の世界で使われ始めたのは、ここ数年のことだ。高齢化が進む日本では、心不全は今後も増え続ける。心疾患全体の治療患者数はすでに358万人(2023年)を超え、年間医療費は2兆円規模に達している。
心不全は「治る病気」ではない。薬や手術で症状をコントロールしながら、少しずつ心臓が弱っていく。最終的な治療法は心臓移植だが、日本では臓器提供者が極めて少なく、多くの患者が移植を待ちながら命を落とす。
循環器の現場にいた自分には、この「出口のない戦い」がよく見えていた。補助循環の機器に命を預けながら移植を待ち続ける患者。LVADをつけたまま感染リスクと引き換えに家族と過ごす患者。この現実を変えようとしている会社が、クオリプスだ。
澤芳樹先生とは何者か
クオリプスを語るとき、この人物を外すことはできない。澤芳樹先生。大阪大学大学院医学系研究科の心臓血管外科教授だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出身 | 1955年大阪府生まれ、大阪大学医学部卒業 |
| 職位 | 大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科 教授 |
| 実績 | 就任後15年で手術件数300件→1,000件、死亡率4%→0.3% |
| 受賞歴 | 2016年日本医師会医学賞、2020年紫綬褒章 |
| クオリプスでの役職 | CTO(最高技術責任者) |
日本の心臓血管外科のトップが、なぜ会社を立ち上げたのか。答えはシンプルだ。「大学では製造販売承認が取れない」から。研究室でどれだけ優れた技術を生み出しても、患者のもとへ届けるためには別の仕組みが必要だ。澤先生はそのために、クオリプスを設立した。
心筋シートを臨床工学技士として読み解く
クオリプスが開発しているのは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の心筋細胞シートだ。iPS細胞から心筋細胞を作り出し、シート状に加工して弱った心臓に貼り付ける。心筋細胞が心臓表面に定着し、機能を補う仕組みだ。
臨床工学技士として、この技術に対して率直に思うことがある。これは「補助」ではなく「再生」だ。
現在の心不全治療の多くは、補助人工心臓(LVAD)のように弱った心臓を機械で支える方向性だ。エネルギー源が必要で、感染リスクもある。患者は機械と共に生き続けることになる。心筋シートが目指しているのは、その先だ。心臓そのものを治すという発想。
2026年2月、クオリプスはiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認を取得した。世界初だ。日本が世界に先駆けてこの技術を承認した。2026年秋ごろの発売が予定されている。
クオリプスの基本情報・現在地
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 証券コード | 4894(東証グロース) |
| 上場日 | 2026年2月27日 |
| 公開価格/初値 | 1,560円 / 1,680円(+7.7%) |
| 主要製品 | iPS細胞由来心筋細胞シート |
| 承認取得 | 2026年2月(条件付き・期限付き承認) |
| 発売予定 | 2026年秋ごろ |
| 現状 | 開発・商業化移行期(赤字) |
強み
- 世界初のiPS由来心筋シート承認というパイオニア性
- 澤先生という医学界のトップが率いる信頼性
- 心不全市場の巨大さと成長性(国内患者数120万人→2030年130万人超)
- 第一三共との連携など製薬大手とのパートナーシップ
リスク・課題
- 現時点では赤字・売上ほぼなし(開発段階)
- 条件付き・期限付き承認であり、本承認には追加データが必要
- バイオベンチャーは承認後の商業化に固有のリスクがある
- 競合技術(細胞注入療法等)の進展リスク
循環器専門家として思うこと
投資の話としてクオリプスを見るとき、自分には財務アナリストにはない視点がある。心筋シートが実用化されれば、何が変わるか。
LVADを装着して移植を待ち続ける患者の「待ち方」が変わる。終末期の心不全患者に、新しい選択肢が生まれる。CEとして補助循環に関わってきた立場から言えば、これは機器の話ではなく、患者の生き方の話だ。
世界初の心筋シートが、日本から生まれようとしている。澤先生の「研究を患者に届ける」という意志が、企業という形になった。それがクオリプスだと、自分は理解している。
投資対象として評価するかどうかは別として、この会社が目指しているものの意味は、循環器の現場にいた人間には重くリアルに伝わる。
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臨床工学技士として循環器専門病院に5年間勤務。心臓カテーテル・補助循環・ペースメーカーを専門に担当。その後、日系・外資系医療機器メーカーを経て現職。循環器領域の臨床経験と医療機器業界の知見をもとに、医療×投資の視点で情報を発信しています。

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