「なんで頑張っても給料が上がらないんだろう」
急性期病院で臨床工学技士として働いていたとき、何度もそう考えた。透析管理、手術室での補助、除細動器の点検、夜間オンコール。業務の幅は広かった。でも給料の数字は毎年ほとんど動かなかった。
「専門職だから仕方ない」と思い込もうとしていたけれど、転職してから初めてわかった。上がらないのは「仕方ない」のではなく、構造的な理由があった。
理由① 需給バランスが看護師と全然違う
看護師は常に「3万人不足」と言われ、各病院が奪い合う状態が続いている。不足しているから、処遇改善が政策として動く。給与も動く。
臨床工学技士はどうか。国家資格の取得者数は毎年増え続けており、病院側の視点では「辞めても補充できる」という感覚がある。需要より供給が追いついているポジションでは、給与交渉の前提条件が成り立ちにくい。
「専門職だから優遇されるはず」という期待は、需給バランスが崩れた瞬間に崩れる。
理由② 歴史が浅く、政治力がない
医師には医師会という強力な組織がある。看護師には歴史と数(約120万人)という力がある。
臨床工学技士の国家資格は1987年。まだ40年に満たない。業界としての政治的な発言力は弱く、診療報酬の設計でCEの技術料が適切に評価される仕組みを作ることが難しかった。
「頑張っているのに評価されない」は個人の問題ではなく、制度設計の問題でもある。
理由③ 「なんでもできる」が「なんでもやらされる」になっている
これが一番の構造的問題だと思っている。
臨床工学技士は業務範囲が広い。透析・手術・ICU・カテーテル室・機器管理——病院によっては呼吸器管理や内視鏡まで担当する。
「なんでもできる」は強みだ。ただ病院の視点では「一人で複数領域をカバーしてくれる便利なコメディカル」になりやすい。業務が広い分、「この人がいなければ成り立たない専門領域」が見えにくくなる。
看護師は「ICU専門」「手術室専門」と分業が進んでいる。専門を絞るほど希少価値が上がる。CEは「なんでもやる」ことで評価されながら、その「なんでもやる」が年収交渉の武器になりにくいという逆説を抱えている。
理由④ タスクシフトで業務は増えても、給与は追いつかない
2021年の臨床工学技士法改正により、CEが担える業務範囲がさらに拡大した。医師の働き方改革の一環として「タスクシフト・タスクシェア」が推進され、これまで医師が担っていた業務の一部がCEへ移ってきた。
具体的には気管挿管の補助、静脈路の確保・採血、手術室でのより広い医療機器操作など。現場のCEは新たな技術を習得し、責任範囲を広げている。
ここに大きな矛盾がある。業務は増えた。責任も増えた。でも給与は変わっていない。
タスクシフトは「CEの専門性が認められた証拠」という側面もある。しかし現状では、診療報酬への反映も、病院内の給与テーブルへの反映も、業務拡大のスピードに追いついていない。「できることが増えた」ことと「もらえる金が増える」ことは、今の仕組みの中では直結しない。
都合よく使われている、という感覚は気のせいではない。構造的にそうなりやすい仕組みの中にいる。
理由⑤ 診療報酬は「行為」に払われる。技術の質には払われない
病院の収入は診療報酬で決まる。「この検査を何件やったか」で算定される仕組みで、「誰がやったか」「どれだけ深い知識で判断したか」は評価されない。
新人でもベテランでも、病院の収入は変わらない。収入が変わらないなら、人件費を上げる動機が生まれにくい。
理由⑥ 給与テーブルが年功序列で固定されている
スキルを伸ばしても、専門資格を追加取得しても、テーブルの外には出られない。入職時点でおおよその生涯賃金が読めてしまう構造だ。
外に出てわかったこと
複数回の転職を経て、医療業界の企業に移った。
病院にいたとき、給与への不満はあっても「どうにもならない」と思っていた。転職してわかったのは、「どうにかできる」ということだった。スキルと経験に値段をつけて、交渉できる世界が存在していた。
医療機器メーカーや医療関連企業では、CEの臨床経験と専門知識は「希少なスキルセット」として評価される。タスクシフトで拡大した業務経験も、企業側から見れば「即戦力の証明」になる。院内では当たり前すぎて見えなかった価値が、外に出ると見え始めた。
今できること
- 市場価値を知る——転職エージェントに登録するだけでいい。面接まで行かなくていい。「自分の経験はいくらで評価されるか」を知るだけで、選択の幅が変わる
- スキルを言語化する——「透析管理をしていた」より「100名規模の透析施設で機器管理・トラブル対応を年間XX件担当」と言えるようにする
- タスクシフトで習得したスキルを強みにする——「法改正後に気管挿管補助・静脈路確保を担当」は企業側には即戦力の証明として映る
「給料が上がらないのは仕方ない」は、思い込みかもしれない。
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臨床工学技士として急性期医療の現場を経験し、現在も医療業界に身を置きながら投資・資産形成を実践。医療職の視点で「現場のリアル」と「お金の守り方」を発信しています。







